私は趣味で絵を描き始めて十年以上経ちますが、二年ほど前から、本格的に「絵を売る」ということを視野に入れた制作活動を行うようになりました。
絵を描き始めてから絵を売るまでの自身の経験を元に、改めて「絵の値段」について考えてみました。
絵を売る前の私
絵の値段について考える前に、そもそも自分が何故絵を始め、すぐにやめることなく続けていたんだろう…と昔を振り返ってみました。
(テーマと関係ない自分語りが入るので興味無い方は読み飛ばして下さい)
当時勤め人だった私は、元々のネガティブ思考に加え、合わない仕事のストレスなどから更なる自信喪失に陥っていました。
そんな時、猫という私にとって最高のモチーフに出会い、絵画展や猫作品展に出品するようになってから、来館者の温かい感想を頂いたり、運良く賞を頂いたりすることで少しずつ自信を取り戻していきました。
よく、描くのが好きで、絵を描いている時は嫌なことを忘れられる、という人もいますが、私は残念ながらそういうタイプではないです。
気持ちの切り替えが非常に下手な人間なので、仕事でクタクタなのに休日に絵を描くなんて本当はだるくて億劫で仕方ない。ストレス発散にならないのに描いてて意味あるのか…?
それでも、何とか完成して出品できた時、毎回必ず味わうことができたのが、「完成の喜び」という達成感でした。またその絵を見て見知らぬ人が何かを感じて素敵な感想を下さる。
失うばかりだった自信を取り戻すために唯一できることが猫の絵を描くことだったので、楽しいというよりは寧ろしんどいけれど続けていました。
そこからは毎年展覧会出品に向けて制作するというのを主なモチベーションとして、絵を続けていました。
そんな感じでしたから、当時は自分の絵に値段を付けるなんてまともに考えてみたこともありません。
素人の絵がそもそも売れるはず無い。かといって時間と手間を掛けて真剣に描いたものであることは確かなので、あまり安く付けるのも何だか絵がかわいそうなような…
結局売れない前提で適当に高めの値段を付けたり、非売と表示してみたり、色々定まっていない感じでした。
買う側として感じた【絵の値段】
猫の絵を描き始めるようになってから、猫作品の企画展やグループ展を勉強のために観に行ったり、徐々に自らも出品したりするようになりました。
「猫」というジャンル自体が売れ筋ということもあってか、そもそも販売を目的とした展覧会が多いです。
そうなると、今まで絵を買う習慣など無かった私も、猫好きの血が騒ぎ「欲しいなあ…」と思うものが出てくるので、当然値段が気になります。
どんな作品がどの位の値段で売られているものなんだろう?
そう思いながら色々な作品を眺めていると、私の中に、ある二つの矛盾した感情が芽生えました。
客としての私「この絵可愛い、でも正直高い…ポストカードとかミニグッズとかなら買って帰れそうかな」
作家としての私「こりゃ凄い手間かかってるなー、この金額で売れたとしてもきっと割に合わないだろうな」
買う側としては高すぎる、でも売る側としては実は安すぎる。という感情です。
前提として、私は庶民であり、なおかつ物欲は薄めです。(物欲の薄さは作家として問題があると後々気づいたのですが…)
今の世の中私のような人は多いのか、やはりよく売れているものを見ると、比較的安い、それでいてクオリティーも高く、可愛いグッズ系がほとんど。
レベルの高い猫の絵画作品は沢山あるけれど、売れるとなるとまた全然違った難しさがあるんだな、と感じました。
実際に描く者として、直筆の絵画となるとどうしても手間がかかります。
私と同じように矛盾した感情を抱えながら絵の値段設定に悩み、苦心されてきた作家は多いのだと思います。
最近ミニ絵画が人気なのは、描き手と買う側の事情がうまく噛み合った結果なのかもしれません。
絵を売ってみて感じた【絵の値段】
2年ほど前、個展をきっかけに、本格的に販売を意識して絵を制作するようになりました。
それまでも、企画展で絵に値段を付けたことはあったのですが、何となく付けていただけで、本気で売れるとは思っていない状態でした。
各出品者のお客さんがついでに?自分の作品も観てくれますし、私も観覧者として他の作品を楽しめるし、それで充分満足していました。
でも個展となれば、並ぶのは自分の作品だけ。まず売る気があるのか無いのか、その辺をはっきりさせないと、中途半端な展示になってしまう。
過去にも一度だけ、カフェで展示のみ(非売)の個展風のものはやったことがありましたが、また同じことをやっても進歩が無いと、販売に挑戦することに。
で、売ると決めた途端、1枚も売れなかったらどうしよう!?いくらなら買ってもらえるだろう!?と色々不安が押し寄せ、絵の値段を本気で悩み始めました(遅すぎ…?笑)
調べると、主に号単価(1号あたり○万円)で換算する方法と、時給に換算する方法というのが一般的らしいです。
また、単純に号単価のみで計算してしまうと、大きな絵ほど高く、小さな絵ほど安くなってしまうので、売り上げを意識して幅を持たせたほうが良い、とも。
確かに、無名作家の作品がたまたま売れるとすれば、小作品の方が可能性高いですもんね。
私は、制作時間の計測をそこまできっちりしていなかったのと、そもそも掛けた時間と作品のクオリティーが一致しない部分もあり、
号単価を基準にしつつ、大きな作品は安め、小さな作品は高めにし、目玉商品的な作品は割安にするなどしてみました。
結果、無事数点売ることができ、翌年も個展を開催しました。
2度の個展で実際に売ってみて感じたことは…
・小さな作品の方が売れやすい(5万円以下)
猫は特に小作品向きなのか、0号、サムホールくらいの絵は「欲しい」という声が多かったです。
・売ることを意識していない時期に描いた大きな絵はほぼ売れない(逆にポストカードは人気)
個展では、過去に公募展用に描いた作品も値段を付けて展示していました。10号位が中心で、特別絵が好きか広い家で無い限り、日本の一般家庭で飾るには少し大きすぎるサイズです。
普段箱にしまわれているだけの絵を観てもらえたり、自分で眺めて振り返ることができる機会でもあり、展示したこと自体に後悔はないのですが、
売るにはちょっと難しいだろうな…と自分で値段を付けておきながら何となく感じていたとおり、やはりほぼ売れません。
とても興味深く絵に見入って下さる方もいて、ポストカードはよく売れたので、何らかの共感や感動を得たという実感はありました。
また、ポストカードが手元に残ることで作品を思い出してもらいやすいので、次回に繋がるという意味では良かったのかなと思います。
考えてみれば、自己表現が中心で、相手に価値を提供することを意識して描いたわけでは無い素人の絵が、そうそう売れるはずがない。
公募では規定サイズ内でいかに自分の作品の存在感をアピールするかをメインに取り組みますから、作風も見応え重視で、飾りたいかというと?な感じ…
そしてモチーフに対するサイズや型が売り物として適確かという肝心なところが抜けている。
(たまたま合致することもありますが)
個展に向けて描いた、実際売れた絵との違いを自分なりに客観的に分析すると、きっとそういうことなのかなと思います。
知り合いの猫作家さんが、私の過去作を懐かしそうに見ながらふと、「何となく最近絵が変わりました?」と言って下さったことも、深い意味があったのかは分かりませんが、心に響いています。
売る前と後の自分の絵の大きな違いとしては、単に自己表現として描いた絵か、個性は残しつつ価値を提供することも意識して描いた絵か、ということでしょうか。
どちらが良い悪い、ではなく、絵の好みも人それぞれですが、目的によって作風が自ずと変わっていくということを経験として学びました。
・ミニ絵画は手土産感覚で初対面の人にもよく売れた(5千円~1万円以内)
世間的に人気のミニ額を、自分なりに取り入れてみた結果、思いのほか好評でした。
物欲が薄く、高い買い物がなかなかできないという、私自身の価値観に合わせ、1万円以内で原画を提供できるような工夫をしました。
キャリアの浅い自分としては成功パターンとして大事にしていきたい結果です。
一方で、「物欲がなさ過ぎるのは、売る側として問題じゃない?買う側の気持ちが分からないということだから」と物欲のあり過ぎる?身内にグサッと言われました…。
以来、様々な作品に触れる機会を増やし、懐事情で買えるかどうかは別としても「欲しい」アンテナを張って物を見ることは大事だなと常々感じています。
さまざまな「絵を買う理由」
そもそも絵を描いたことはあるけど買ったことはない、という方は結構多いかと思います。ではどんな人がどんな理由で絵を買うのでしょうか?
・美術愛好家
絵画に限らずですが、美術品が好きで収集し、鑑賞することを趣味としている、いわゆる「コレクター」さんです。
・絵に心惹かれた
「綺麗」「上手い」「可愛い」「感動した」など理由は様々ですが、たまたま見かけた絵に強く心惹かれて、思わず欲しくなった。
目の前で実物を見る機会があると、無名の作家の作品でもこういった理由で絵を買う方もいます。
描き手としては、こんな理由で絵を買ってもらえたら、それこそ画家冥利に尽きます。
・癒しやパワーをもらえる
心惹かれる、の一つでもありますが、理屈抜きで癒やされたり、見ていると何となく力がわいてきたり…
空想的、抽象的な作品がどちらかというと多く、ヒーリングアート、スピリチュアルアートと呼ばれたりします。
・画家のファン
生身の人間が制作するものである以上、その時々の心境や体調、作家の成長度合いなどにより作品も変化していきます。
そういったものをひっくるめて画家のキャラクターやヒストリーなどの人物像に惹かれ、その人の作品だからこそ買いたいという方も多くいます。
魅力的な人物の生み出す作品はやはり魅力的、ということなんですね。
(私もそうなりたいものですが、人間力を磨かなければ…(^_^;))
・画家を応援したい
家族や親戚、友人や知り合い、または同郷のよしみなど、単純に応援したいという理由から絵を買ってくれる方もいます。
これは駆け出しの画家にとっては大変励みになり、有り難いことです。
と同時に作品が未熟であったり好みとは異なるものであっても、あえて買ってくれたのかなという思いも正直あります。
そこはうまく成長の糧にし、いつか本当の意味で満足してもらえるような作品が生み出せれば良いと思います。
・部屋や店に飾りたいから
コアな絵画ファンでなくとも、部屋の雰囲気を彩るためのインテリア的要素で買うケースです。
有名絵画の複製画や、原画であれば花や風景、明るめの抽象画など、洒落た感じで気楽に眺められる感じの絵が多い気がします。
・描く人が教材として買う
自らも絵を描くという人が、絵画教室の先生の絵を買ったり、憧れの作風の絵を勉強のために買うというケースです。
私も元々絵を買う人では無かったのですが、自分が描くようになってからは、本当に気に入った作品は参考にする意味も含めて買いたいと思うことが少しずつ増えてきました。
・贈り物として
日本では絵を贈る習慣自体は一般的では無いかも知れませんが、主に新築祝いなど。
また、ミニ額であればちょっとした手土産やプレゼントとして買う方も結構いるのではないでしょうか。
・投機目的
絵画が取引される市場は「プライマリーマーケット」と「セカンダリーマーケット」があり、
作家本人、またはギャラリー等が一度も人手に渡っていない作品を最初に売り出す市場をプライマリーマーケット(一次市場)といい、
一度誰かの手に渡った作品が再び取引される市場をセカンダリーマーケット(二次市場)というそうです。
将来的に価値が上がることを想定して話題性のある絵画を購入したり、有名絵画をオークションで購入したり、などは投機目的も絡んでいるのかなと思います。
もちろん単純に投機のみが目的というよりは前提として絵が好きで見識が深い方がほとんどでしょう。
よく聞く、「作者が亡くなった後に価値が上がっていく」というのもこのセカンダリーマーケットによるものなのでしょうか。
まとめ
様々な理由で絵を買う人がいるので、「絵の値段」は人によって高すぎると感じたり安すぎると感じたりするものだと思います。
贈り物として安すぎる値段のものはどうなのかということもありますし。
セカンダリーマーケットにおいてはおそらく「高い値段であること」そのものに意味があるのでしょうし。
私はそちらの専門家ではないので、あくまでキャリアの浅い描き手として、また実際に絵を売ってみて今思うことは、
労力や手間などを考えれば決して高すぎる値段ではないと描き手が思っても、買う人がいなければ成立しない。
無名作家は、よほど本人にプロデュース能力があるか、画商に売り出してもらうかしない限り、作者が思う本当の妥当な値段で売るのは難しい。
売る側と買う側の感覚の乖離のようなものを何となく感じるので、常に両方の側に立って、この感覚の差を埋めていく必要があるなと考えています。
画家として作品のクオリティーを磨いていくのは勿論ですが、絵の値段についてはまだまだ分からないことだらけで、研究が必要そうです。
個展の感想などをつぶやいてます↓
過去作も含めた作品集をご覧頂けます=^_^=
↓↓↓
専業11年目の漫画家です。
大変面白く拝読させていただきました。
ありがとうございます=^_^=
専業の漫画家さんにご感想頂けるなんて、とても光栄です。
自分も専業画家を目指しています。
とても良い記事で
絵を描き続けようと思います。
ありがとうございました。
ありがとうございます。コメントを頂き、絵を続けていて良かったなと思っている今の私です(^^)
同じ創作者として、「描き続けて良かった」と思える瞬間がとも様にも沢山訪れるよう願っています。
絵画ファンです、つい先日無名の方にオーダーしました。今までは有名な方のしか買いませんでしたが、LINE交換して作品をvoomで見てるうちに応援したくなりまして。絵画がもっと身近に、もっと価値あるものなればいいなぁ
コメントありがとうございます。確かに、作家との距離感が近くなることでより応援したい気持ちになりますよね。そして、作家側も期待に応えたいと、更によい作品を生み出す好循環になっていくのかもしれません。心豊かな絵画ファンの存在はとても有り難く貴重なものだと思います(^^)